「お金のデザイン研究所」設立!所長の加藤康之教授インタビュー(前編)世界の投資のトレンドは?

THEO by Money Design
Letter from THEO
Published in
9 min readJun 8, 2019

--

お金のデザインは、資産運用技術の研究を行う「お金のデザイン研究所」を2019年6月1日に設立しました。所長には、首都大学東京特任教授、京都大学客員教授であり、当社アカデミックアドバイザーの加藤康之氏が就任します。

加藤康之教授はTHEOBlogにもたびたび寄稿していますので、記事を読んだことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか?

「お金のデザイン研究所」では、多様化する”人生100年時代”の社会に向け、資産運用技術の研究を行います。加藤康之教授に現在の資産運用業界について、また「お金のデザイン研究所」でどういった研究を行うのか、設立に込められた想いなどについて、話を聞きました。

-加藤教授は資産運用研究の第一人者でいらっしゃいますが、資産運用業界の「いま」について教えてください。
まず、日本の資産運用の状況についてです。最近、
金融庁が出した高齢社会における資産形成の指針※によると「長寿化に伴い、資産寿命を延ばすことが必要」となっており、話題になっています。年金制度や将来の生活に対する不安の声も聞かれます。長年資産運用業界に携わって来られた立場から、どのようにお考えですか?

※金融庁:金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」

加藤:少子高齢化のもとで年金制度などに不安を感じるのは自然だと思います。しかし、これからの時代はテクノロジーの進展が経済社会構造を大きく変革していくことが期待されています。悲観的になりすぎることは生産的ではありません。もちろん、楽観的になりすぎることも禁物です。しっかしりした資産運用計画のもと、リスクに備えて準備をしておくことが重要です。

-楽観的にも悲観的にもなりすぎず、しっかり計画を立てることが大切なのですね。
6/4に開催したイベント「
『お金のプロ』に学ぶ、“人生100年時代“に知っておきたいお金の話」でご登壇いただきましたが、イベントは応募申し込みが殺到し大盛況となりました。お金に対する興味関心は高まっていると思いますか?

6/4イベントより

加藤:過去20年間の個人金融資産の増加率で見ると、日本は欧米の半分以下となっており大きな差をつけられています(図1)。先進国における国際投資は基本的に自由化されていますから、この差は制度の問題ではなく、単純に日本人が資産運用を行ってこなかったためなのです。日本の金融資産は現金・預金が50%を占めていることからもわかると思います(図2)。
つまり、日本は資産運用において「負け組」だったのです。日本人もようやくこれに気がつき始めたのだと思います。

図1
図2

-なぜ、日本では個人の資産運用があまり進んでこなかったのでしょうか。

加藤:バブルの崩壊後、日本経済は失われた20年を経験しました。この間、国内株式リターンは低調でした。投資家は国際分散投資に目を向ければ良かったのですが、国内資産への偏重が続き、また、海外投資をしても円高で損失を被った投資家もありました。日本の投資家にとっては、世界的に見ても、最も難しい投資環境が続いたと言えます。さらに、デフレの環境下では、現金の価値が高まり続けます。この環境下では、資産運用をしないという行動が必ずしも全く間違った選択とは言えなかったのです。

しかし、令和時代には、少子高齢化や財政赤字の拡大など日本の経済が抱えるリスクが顕在化することが予想されます。経済環境は大きく変わると考えられます。今後は資産運用をしないことがリスクになるでしょう。

-「資産運用をするリスク」に目が行きがちですが、「資産運用をしないリスク」もあるということも考えなければならないということですね。世界的には、投資はどのように変わってきているでしょうか。

加藤:3つの大きな流れがあると思います。

「パッシブ化※1」「AI化」「ESG化」です。

パッシブ化の理由は、アクティブ運用の不振、受託者責任の強化による透明性向上の流れ、低金利下での低コスト運用へのニーズなどがあります。この流れはさらに続くでしょう。
AIは今や社会のあらゆる分野で導入されつつありますが、資産運用も例外ではありません。AIの活用は、事務の合理化からポートフォリオ構築の精緻化まで幅広い分野で期待されています。投資家にとっては、より自分に適した資産運用がより低コストで出来るようになるでしょう。
なお、AIを使えばもっと儲かるようになると単純に考えるのは早計です。すべての投資家がAIを使いこなすようになれば、みな同じ市場平均リターンになってしまうからです。この意味でもパッシブ化は進むのでしょう。

ESG化ですが、経済格差の拡大や環境破壊など資本主義の行き詰まりが指摘される中、投資家による社会変革行動が注目されています。社会的貢献度の高い企業への選択的投資、つまりESG投資※2、が世界的に大きな流れになりつつあります。

※1 パッシブ運用:運用手法による分類のひとつ、市場の指数(日経平均株価やTOPIXなどの指標(インデックス))をベンチマーク(基準)とし連動する運用成果を目指す手法。 ベンチマークを上回る運用成果を目指す運用手法のことを「アクティブ運用」という。
※2 ESG投資:ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字。この三つの要素に着目して企業を分析し、優れた経営をしている企業に投資すること。

-加藤教授は特に近年、AIやESGに関する論文を書かれたり、講演されることが多いですよね。これまでどのような研究をされてきたのでしょうか、よろしければ教えてください。

加藤:少しテクニカルになりますが、例をあげて説明しましょう。

私の専門分野は投資理論であり、その中でも株式や債券の価格など様々なデータを分析して最適なポートフォリオを構築する方法の研究を行ってきました。データを扱うことにより統計的なアプローチが可能になります。
THEOのポートフォリオを構築する方法もファクターという最新の投資理論を応用した研究成果と言えます。
最近ではAIやビッグデータに注目しています。例えば、ネット上にある膨大な文章情報、つまり、世界の政府や中央銀行の発表する経済情勢を分析したレポートや企業が発表する業績へのコメント等でそのデータ量の巨大さからこれらをビッグデータと呼んでいますが、これらの文章情報をAIに読み込ませて数値化します。この数値化したデータをもとにディープラーニングを使って市場の変動性を推定しポートフォリオを構築するといった研究です。

-ESG投資に関しては、「ESG投資の研究(一灯舎)」という著書も昨年出版されていますね。

加藤:ESG投資はどうしても「社会に貢献する企業に投資することは良いことだ。」といった理念的な話になってしまいがちです。

しかし、受託者責任を負った機関投資家にとっては、ESG投資にも理論的な枠組みや投資パフォーマンスへの影響などの実証的な研究が必要です。本書はESG投資に関する実証的な研究をまとめた日本で初めての本と言えます。少しテクニカルですが、機関投資家だけでなく、ESG投資の理論的な側面に興味のある方に読んでいただきたいと思います。

左:ESG 投資の研究 — 理論と実践の最前線(一灯舎)、右:The Emergence of ETFs in Asia-Pacific(Springer)

ーありがとうございました。

後編では、アカデミックアドバイザーとしてのお金のデザインとの関わりや、今回設立した「お金のデザイン研究所」についてお話を伺います。

<プロフィール>

お金のデザイン アカデミックアドバイザー/首都大学東京特任教授 京都大学客員教授

加藤 康之

東京工業大学大学院修士、京都大学博士。1980年4月(株)野村総合研究所入社。海外拠点を経て同社システムサイエンス部長、野村證券(株)金融工学研究センター長などを歴任後、野村證券(株)執行役。2011年4月から京都大学大学院経営管理研究部教授、2019年4月から現職。他に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)経営委員、国民年金基金連合会資産運用委員会委員、証券アナリストジャーナル編集委員、日本ERM学会会長などを兼任。

著書「初心者のための資産運用入門」「金融工学事典」東洋経済新報社、「退職後の資産運用 — 超高齢化時代のリタイアメント・マネジメント入門」「ESG 投資の研究 — 理論と実践の最前線」一灯舎、”The Emergence of ETFs in Asia-Pacific” Springerなど

投資一任運用サービスTHEOに係る手数料等及びリスクについてhttps://theo.blue/policy/cost-risk
株式会社お金のデザイン
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第2796号
加入協会:日本証券業協会、一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人投資信託協会

© 2019 Money Design Co., Ltd.

--

--